大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和26年(う)1168号・昭26年(う)1167号 判決

しかし所論昭和二五年一〇月二一日附起訴状記載の公訴事実では被告人等が共謀の上富士振興株式会社川之江支店の名を以て俗に言う看做無尽の加入者を勧誘し谷内繁子外二六三名から看做無尽掛金名義のもとに同起訴状記載の金員の交付を受けた事実を以て刑法詐欺罪と貸金業等の取締に関する法律第七条違反の罪との二個の罪名に触るるものとして起訴せられたものであることは右起訴状の記載自体に徴して明らかでありこれを以て二個の異なつた起訴があるものと見ることは到底できない、なるほど同起訴状に依ると富士振興株式会社川之江支店は詐欺罪の関係に於ては実在しない全く架空のものであると主張し、他方貸金業等の取締に関する法律第七条違反の事実については同支店が同法に依る貸金業者であつてその実在することを前提とするものであつて起訴事実の内容に相矛盾するところのあることは所論の通りである、しかし起訴状に包含された二箇の訴因の内容に仮に矛盾があつてもその公訴事実の同一性が認められる限り起訴は一箇であると認定すべきであつてこのことは刑事訴訟法が公訴事実の同一性を害さない限り訴因の撤回、追加、変更を許し、又訴因の予備的或は択一的請求をも認めている趣旨からも容易に理解できるところである、而して右起訴状記載の本件公訴事実は前記認定の通り結局被告人等が共謀の上富士振興株式会社川之江支店の名義を以て加入者を勧誘し、加入者を欺し右起訴状に記載する各加入者から夫々預金名義のもとに金員の交付を受けたことを以て公訴事実とするものであり、その限りに於て詐欺並に不法に預り金をしたと言う一個の訴因はあるが右は一個の行為で二個の罪名に触る場合に該り起訴は単一と見るのが相当である、従つて原審が検察官から所論の点につき公訴の取消があつたに拘らず一罪の一部に対する公訴の取消は実質は訴因の撤回に外ならないとして公訴棄却の決定をしなかつたことは正当であり、これが公訴棄却を前提としての右弁護人の論旨は到底採用することはできない。

同第二点について、

しかし原審が認定した原判示第一の事実と昭和二五年一〇月二一日附起訴状記載の詐欺罪とが共に被告人等が谷口繁子外二百余名から看做無尽掛金名義のもとに原判示金員を受取つた事実を内容とするものであることは右起訴状及び昭和二六年七月一一日附検察官の予備的訴因追加請求書の記載から明らかであり、両者を検討するとその間公訴事実の同一性は優にこれを認定できるから被告人坂中頼雄の関係に於て原審が予備的にこれが訴因の追加を許したことは何等違法でない、又一度撤回した訴因も後これを一部変更して改めて追加することは別に法の禁ずるところでもないので論旨は結局理由がない。

なお職権に依つて原審の認定したところを原審の取調べた各証拠に依つて検討してみると富士振興株式会社川之江支店は貸金業等の取締に関する法律に所謂貸金業者としての所定の届出が為されていないのみならず大蔵大臣の認可もないことが明らかである、尤も同支店は松山市にその店舗を持ち所定の貸金業者として大蔵大臣の認可を受けた富士山振興株式会社の支店と言うことになつているが原審並に当審の取調べたところではこの両者の間には何等本店と支店としての業務上の連絡、関係はなく、独立採算制と言うものの単に同会社川之江支店の名称を用いているに過ぎず実質は全く別個の存在であることが明らかである、のみならず貸金業等の取締に関する法律に於ては支店と雖その支店が同法に所謂、貸金業を行う場合は当然大蔵大臣に所要の届出を為し、その認可書を受くることを要しその認可のない限り同法に所謂貸金業者と言うことができないことは同法第三条乃至第六条からも容易に理解されるところであるから富士振興株式会社川之江支店は同法に所謂貸金業者と言うことはできない、然るに原審がこれを同法の貸金業者と認定し、これを前提とする同法第七条に違反する行為として被告人等に原判示第一の事実を有罪と認定したのは事実誤認の違法があり、この誤りは判決に影響するから原判決はこの点に於て結局破棄を免れない。

(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!